わたしを離さないで カズオ・イシグロ

わたしを離さないで カズオ・イシグロ

わたしを離さないで カズオ・イシグロ
わたしを離さないで
原題:Never Let Me Go
カズオ・イシグロ著(早川書房・ハヤカワepi文庫)

この作品は、「泣ける」というような単純なものではなく、
怒りがこみ上げるかというと、そういうわけでもなく、
タイトルから甘い恋愛物を想像してしまいそうですが、
SFのような、医療物のような、読む人により異なるであろう作品です。
あえてここで、ネタバレする気はありません。

こんな運命を受け入れる人生があっていいものかと。

この主人公キャシーは、激しく抗議することなく受け入れていきます。
ある意味「東洋的な人物だな」と感じました。

例えば、「こんな風に思った」けれど、周囲の人と浮いてしまうから
グレーのままにしておいて、言わないままでいる、とか。

カズオ・イシグロさんは日本で生まれた日系の英国人ですから
一般的な西洋的な考えと少し違うのかな。
また、ヨガでは「あるがままを受け入れる」という考え方がありますが
諦めたところで何か別のものが、別の視点がみつかるという考え方が
西洋も含めて広がり受け入れられているのでしょうか。

物語の中では、事細やかに彼女の過去の出来事が描かれる。
この細やかに描写された過去の彼女の記憶や経験。

ノーフォークにあるロストコーナー(遺失物取扱所)にあるかもれしないと
期待するもの、それは当然単なる品物ではなく、
それぞれが大切にとっておきたい記憶でしょう。

トミーとノーフォークの雑貨屋でカセットを探して回ったこと。
この記憶や経験は、けっして奪えないということです。

行き過ぎた医療の歪み、忘れ去られる存在であったとしても
忘れては、離してはいけないことがある。そんな風に静かに語りかけてくるから、
この物語が頭から離れなくなるのかもしれません。

2011年10月15日の感想