正三角関係 NODA・MAP 東京芸術劇場プレイハウス

9月に入り、虫の音も聞こえ始めた今日この頃。
皆様、いかがお過ごしですか。

異常ともいえる猛暑続きのこの夏、お芝居を観てきました。

<備忘録として>
・「カラマーゾフの兄弟」がモチーフの法廷劇。
「演劇ならでは」が、沢山散りばめられたお芝居。

演劇ならではとは、
人間の声や肉体の表現、
言葉のおかしみ、見立て、脚本、
演者と観客が同じ空間を共有していること、など。

・「父殺し」をめぐって、性格の異なる「三兄弟の三角関係」、
いくつかの「男女の三角関係」、「国の三角関係」。

二極対立ではなく、三つのパワーバランス。
一人の人間の持つ多面性。

・アンサンブル、チームワークの素晴らしさ。
年々洗練され、パワーアップしている。

・過去から繰り返されるテーマ、メッセージ。
年を重ね「パンドラの鐘」をまた違う角度から深めて。

野田さんは、インタビューによると、
「若い時は、「毎回違うテーマにしなくては」と思っていたが、
今は、自分にしか書けないことだから、繰り返して良いと思うようになった」と。

私は過去のお芝居も観ているので、その共有部分が土台になり、
今回の芝居が新たに積み上がっていく感覚がある。
それは私にとって嬉しいこと。

脚本家、作家、画家、映画監督、全ての物を創る人間が、
本人にとって興味のあるテーマや重要なテーマを何度も繰り返し、
じわじわ深めていくというのは、私は当然のことだと考えている。

お芝居のメッセージが、
年々ストレートになっている、と感じる。

・集中力が保てる休息なしのこの上演時間が良い。

・村岡希美さん、池谷のぶえさんが、もう、すっごくイイ!

ちょっぴり、ぼやき
・パンフレットが読みにくい。
特に「スタッフのプロフィール」と「ロンドンへの道」。
小さい文字が斜め、文字の下に2色のビビットカラー。
文字の下に点線とかOとかNとか、デザイン性はいらない。
読みたい記事なので、シンプルな画面を希望。

東京の後は、九州、大阪、ロンドンと長丁場になるので、
スタッフの皆様のご健康を祈っております。

正三角関係、野田マップ2024

松本潤×長澤まさみ×永山瑛太=『正三角関係』!?

今夏、演劇界の“事件”、開幕。
松本潤、長澤まさみ、永山瑛太。もはや説明不要の3人が舞台初競演。
松本潤は野田が20年前に出会ってから、数多くのワークショップに参加して来た。まさに満を持してのNODA・MAP初登場。自身も実に13年ぶりの舞台出演となる。そして、『THE BEE』(21年)で暴力に屈していく様を儚くも美しく演じ観客を魅了した長澤まさみ。さらに、『MIWA』(13年)『逆鱗』(16年)で清冽で鮮烈なインパクトを残し、近年も表現するたびに新鮮で目覚ましい活躍を見せる永山瑛太。野田が「この作品のために生まれてきた3人」と賞する座組だ。おのずとこの組み合わせに期待せずにはいられない。

この3人を中心に野田はどんな物語を描くのか…?
物語の発射台は、『カラマーゾフの兄弟』。19世紀ロシア文学を代表するドストエフスキーの最高傑作を入口に、野田は「日本のとある場所のとある時代の花火師の家族」、つまり「 唐松族 からまつぞく の兄弟」の新しい物語を創り上げた。

この芝居は、父殺しという“事件”を扱ったサスペンス。
舞台は、日本のとある時代。物語はある花火師一家の三兄弟を軸に展開する。
三兄弟は、長男が花火師。次男が物理学者。三男は聖職者である。
この長男と父親が、一人の“女”を巡る三角関係を織り成し、“父親殺し”へと発展する……

『カラマーゾフの兄弟』の設定を入口に、「唐松族の兄弟」を演じるのが、松本・長澤・永山の3人だ。松本が長男の花火師を、永山が次男の物理学者を、長澤が三男(!)の聖職者を演じ、この三兄弟の父親を竹中直人が演じる。いつもの如く、お客さまの観劇当日の新鮮さのために、NODA・MAPの新作公演は幕が開くまで物語の全貌が明かされない。とはいえ、『松本は心が荒廃した花火師、長澤は性格的にも真反対の“男役”と“女役”の二役を演じ分け、永山は神をも恐れぬ不敵なインテリと、3人いずれも新鮮な役どころである。』という断片的なインフォメーションが明かされている。

松本・長澤・永山の3人に加えて、村岡希美、池谷のぶえ、小松和重、竹中直人という日本のエンタテインメント界に欠かせない強者たちが勢揃い。いずれも近年のNODA・MAP作品で圧倒的な存在感を放ってきた4名による、まさに盤石のキャスティングだ。加えて、毎回、何役を演じるのか注目が集まる野田秀樹も舞台に立つ。さらに、ここにNODA・MAPを語る上で欠かせない変幻自在な17名の精鋭アンサンブルキャストが合流。総勢25名のキャストがめくるめく野田ワールドを展開する。
この芝居そのものが、演劇界の“事件”とも言えるこのドリームキャストが起こす化学反応は必見だ。(公式HPから)

<作・演出>
野田秀樹

<出演>
松本潤 長澤まさみ 永山瑛太
村岡希美 池谷のぶえ 小松和重
野田秀樹 竹中直人

秋山遊楽 石川詩織 兼光ほのか 菊沢将憲 久保田武人
後東ようこ 近藤彩香 白倉裕二 代田正彦 八条院蔵人 引間文佳
間瀬奈都美 的場祐太 水口早香 森田真和 吉田朋弘 李そじん

兎、波を走る NODA・MAP 東京芸術劇場プレイハウス

暑いですね。皆様いかがお過ごしでしょうか。

NODA・MAPの新作、「兎、波を走る」を観ました。

「不思議の国のアリス」のうさぎを追いかけるうちに、
チェーホフの「桜の園」の世界、「ピーターパン」の世界、
そして現実の不条理な世界へ。

事前に情報を仕入れないでご覧頂いた方がよいと思うので、
ここで物語のネタバレをする気はありません。

<備忘録として>

・舞台の生身の人間の表現としての面白さ。
役者たちの肉体や声。
アンサンブル、チームワークの素晴らしさ。

・アナグラムのような言葉遊びとしての面白さ。
過去に親しんだ物語をおさらいし、再び共有する面白さ。

・脚本の持つ強いメッセージ。

舞台の上だけでなく現実の世界につながり、
私達に問いかけてくる芝居でした。
そして観終わった後も、問いかけ続ける芝居です。

おそらく芝居を観た後、すっきりした気持ちにはならないだろう。
劇場を一歩出てからも、私達の毎日は続いています。
そして相変わらず、不条理は起こっています。
すっきりはしませんよねえ。

確かに解決するのが一番ではあるのですが。
すっきりしない気持ちを抱えながら、それでも毎日を過ごしていく。

芝居を観る前と観た後では、
物の見方が少し変わるのではないかと思います。

野田作品が好きな自分のような人間だけでなく、
若い十代二十代の人にも観てもらいたい作品です。
きっかけは役者目当てだって、全然OKと思います。

野田作品では、あちこちに散らばっていた物語たちが、
ある時つながり(人によってつながる時は違うかもしれないが)
「はっ!」とする。

私はこの瞬間をとても大切に感じていて、
だから事前に情報を仕入れないでいます。
それはこれからも変わらないかなあと思っています。

兎、波を走る、野田マップ2023

野田曰く、物語の設定は、「“潰れかかった遊園地”を舞台に繰り広げられる“劇中劇(ショー)”のようなもの」で、“アリス”が登場するという。果たしてそれは「兎」を追いかけて不思議の国へと迷い込んだあのアリスなのか…?その上、或る“世界的な稀代の劇作家”まがいの人間までもが2人絡んでくるらしい。

謎のベールに包まれた野田の新たな企みに、斬新な顔合わせの豪華キャストが集結。
『フェイクスピア』で堂々の主演を務めた高橋一生がおよそ2年ぶりに野田作品へ帰還。そして昨年の『Q』ワールドツアーで国内外の観客を魅了した松たか子。直近の作品に出演をした俳優を珍しく立て続けにキャスティングをしたのはこの2人で描きたい何かが野田には明確にあるのだろう。そして2010年に『農業少女』(作:野田秀樹/演出:松尾スズキ)で初舞台を踏み、今回満を持しての初登場となる多部未華子ほか、いずれ劣らぬ実力と類稀な個性に溢れたキャストが集う!

物語が進むにつれ、表層とは違う世界が姿を現し、目まぐるしく展開する野田秀樹ワールド。まるで遊園地のジェットコースターに乗り込んだような生の劇体験をこの夏、ぜひ劇場でお楽しみください!(公式HPから)

<作・演出>
野田秀樹

<出演>
高橋一生 松たか子 多部未華子
秋山菜津子 大倉孝二 大鶴佐助 山崎一 野田秀樹

秋山遊楽 石川詩織 織田圭祐 貝ヶ石奈美 上村聡 白倉裕二
代田正彦 竹本智香子 谷村実紀 間瀬奈都美 松本誠 的場祐太
水口早香 茂手木桜子 森田真和 柳生拓哉 李そじん 六川裕史

フェイクスピア FAKESPEARE NODA・MAP@東京芸術劇場プレイハウス

野田秀樹 最新舞台、主演に高橋一生「フェイクスピア」を観てきました。

人が集まる場所を避け続けてきました。とても久しぶりの観劇。
早めの開場、マスク着用、検温、劇場内での会話を控えるなど、
新しい観劇様式で、自分も含め緊張感のある場内でした。

物語は恐山からはじまります。
いざ白石加代子さん扮するイタコ見習いが登場すると、すーっと物語に誘われて。
あれよあれよという間に、異世界に迷いこみ。
気づいたときには、野田ワールドにはまっています。

生の舞台の素晴らしさをこれ程感じたことはありません。

演じる人たち、観ている自分たち、舞台を支えている多くのスタッフたち。
同じ空間で交流していて、それが渦となり、元々の脚本も当然良いのですが、
この交流により、さらに心に響くものになっていると感じました。

頭を空っぽにして、事前情報なしでご覧頂いた方がよいと思うので、
内容については触れないでおきます。

舞台のTV収録・録画もこのご時世ですから、つい観てしまいますし、
ありがたい媒体ではありますが、やはり生の舞台は格別です。

舞台の灯が途絶えないようにと祈るばかりです。

フェイクスピア2、野田マップ2021

嘘が呼ぶのは、真か、死者か、それとも……!?
Fake+Shakespeare=FAKESPEARE(フェイクスピア)

<作・演出>
野田秀樹

<出演>
高橋一生
川平慈英  伊原剛志 前田敦子 村岡希美
白石加代子 野田秀樹 橋爪功

フェイクスピア1、野田マップ2021

Q:A Night At The Kabuki NODA・MAP@東京芸術劇場プレイハウス

Inspired by A Night At The Opera
作・演出 野田秀樹 音楽 QUEEN

クイーン「オペラ座の夜」をベースにした芝居を観ました。

この芝居が企画されたのは2年前、
映画「ボヘミアン・ラプソディ」現象が起こる前とのこと。
最初、「二番煎じになるのでは」と心配しましたが、全くの杞憂に終わりました。

久しぶりの劇場での観劇でしたので、それ自体が嬉しく、
クイーンの音楽と物語がとても良く合っていたこと、
生身の人間が演じるという芝居の面白さを存分に感じることができたことで、
良い芝居を観た時に味わう余韻に、どっぷりと浸っています。

ウィリアム・シェークスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」を下敷きに、
日本の源平の戦乱の世に置き換え、さらに時代は第二次世界大戦のシベリアにスリップする。

2組のロミオ(上川隆也、志尊淳)とジュリエット(松たか子、広瀬すず)を軸に、
私たちが今生きている世界にあふれている不寛容さや、
不寛容さゆえに壁をつくることの愚かさを描いていました。
壁は、建造物的な壁というだけでなく、もちろん心理的な壁でもあります。

いつも通り、見立てや道具遣いが面白く、
台詞も早いのですが、リズムがあって楽しく、ひねりがあり、
役者、アンサンブルのチームワークも素晴らしかったです。

今作は、野田作品の中では、かなりストレートでわかりやすい作品でした。
クイーンのアルバム「オペラ座の夜」をベースにした、
音楽劇・ロックオペラという性格からなのかもしれません。

わかりやすいからといって、観た後の爽快感はなく、
観た後、やはりモヤモヤしてしまいました。
今もまだモヤモヤは晴れることがありません。

それは嫌なモヤモヤではないんです。
芝居が終わって日常に戻っても、ずっと問いかけ続けます。
自分は何か誰かに対して不寛容ではないか、壁をつくってはいないかと。

野田作品は、すぐに答えが出て、すっきりさっぱり終わるものを表現しているのではない。
つど自分に問いかけてくる、終わりのない作品。
素晴らしい作品だったと思いつつ、それだけで終わらせてはいけないな、とも思うのです。

q_nodamap

<出演>
松たか子 上川隆也
広瀬すず 志尊淳
橋本さとし 小松和重 伊勢佳世 羽野晶紀
野田秀樹 竹中直人

贋作・桜の森の満開の下 NODA・MAP@東京芸術劇場プレイハウス

平成がはじまった29年前に初演され、再演を重ねている作品です。
心に残るシーン、台詞がいっぱいです。

10代の頃、劇団夢の遊眠社で観ました。
野田秀樹(耳男)、毬谷友子(夜長姫)の印象は強烈でした。
若く多感な時期に出会った、野田作品です。

坂口安吾の「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」を下敷きとしています。
10代の私は、「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」を読み、
「堕落論」にも興味を持ち、「ちょっと難しいな」と思いながら、
背伸びをして読んだものでした。

今回、野田さんは、本人が古典と感じているこの作品を、
「自分をほめてあげたくない気持ち」で、
「若い頃の稚拙さと向き合い、挑みかかり、コテンコテンにしてやろう」と思っているとのこと。

観たことろ、見立てや道具遣いがとても面白く、
役者陣の台詞や動きが研ぎ澄まされ、
シンプルでわかりやすく、洗練されていました。

なにより、役者陣が非常に豪華でした。
妻夫木聡(耳男)、深津絵里(夜長姫)、天海祐希(オオアマ)、古田新太(マナコ)。

コテンコテンというよりも、
抜群のアイデアでトンガって勢いのある若い野田さん、
経験を重ね洗練された今の野田さん、
そこに素晴らしい役者やスタッフたちが、最高にいい具合に溶け合って、
素晴らしいハーモニーを奏でていました。

作品を貫いているのは、「孤独」でしょうか。

1 孤独
  物を創る人間だけでなく、どんな人間も抱く孤独

2 通常とは違った角度から出来事を見る
  神話の隅に追いやられた、負けた側からの歴史やものの見方

3 自分と違うというだけで、差別するところが人間にはある

作り手の野田さんが過去の自分と向き合うように、
観ている私たちも、過去の自分と向き合うことになるのです。

再演されるたび、芝居を通じて、自分と対面します。
本、映画もそうですが、1度目、2度目、3度目と解釈が変わったり、
一番最初のインパクトの強いまま、ずっと変わらなかったり。

考え方や、ものの見方が変わったことで、共感する所が変わり、
また変わらず同じ所でグッと胸にせまってきたり。

このような楽しみ方ができることが、
名作と言われるゆえんなのかもしれません。

坂口安吾が後に書いたエッセイ「桜の花ざかり」には、

東京大空襲の死者たちを上野の山に集めて焼いたとき、
折りしも桜が満開で、人けのない森を風だけが吹き抜け、
「逃げだしたくなるような静寂がはりつめて」いたと記されており、
それが本作執筆の2年前に目撃した「原風景」となっているのだとか。(wiki抜粋)

まさにタイトル通りの「桜の森の満開の下」の、ラストシーン。
あまりにも哀しくて、美しすぎて、
胸が熱くなってしまうのです。
野田作品の中で最も好きな作品です。

今作、フランスのパリの劇場でも上演されたとのこと。
現地での感想や反応、
今の日本の10代・20代の若い人の感想や反応は、
いったいどういうものなのでしょうか。

偽作・桜の森の満開の下